事業承継とは?Q&A形式でわかりやすく解説15 事業承継後の先代経営者と後継者
Q84.事業承継後の後継者との関係はどうすれば?
事業承継で大切なことは、会社を永続的に発展させることです。そのためには、先代と後継者の二重構造になることは絶対に避けなければなりません。具体的に言うと、後継者を代表取締役専務に任命した時点から、会社の運営はすべて後継者に任せて、相談された時以外は、経営に口を挟まないようにすべきです。そして、後継者を社長にした時からは、社長室や社長の机などはすべて後継者に引き渡して、先代は表に出るのを止めることです。指示系統を後継者に一本化することが、本当の意味での事業承継をするということです。
Q85.事業承継後に会長になった場合の役割は?
オーナー企業の事業承継においては、先代社長は後継者に社長の地位を譲った後は、代表取締役会長としてしばらく会社に残るのが一般的です。会長の役割に決まったルールはありませんが、通常はどのような役割を果たすのがよいのでしょうか。原則として、社内の指示系統が二重構造になるのは避けるべきです。したがって、会長の役割は外部との付き合いということになります。具体的に言うと、外部の会合に出席するとか、その役職を引き受けることなどです。また、取引先や金融機関に対しては、時々後継社長と同行して、人間関係の引き継ぎを円滑にするようにします。それから、代表取締役に留まる限り会社の借入金に対しては、引き続き個人保証を行います。社内に関しては、後継社長から相談があった場合のみ、内々でアドバイスをします。
Q86.事業承継後に相談役等になった場合の役割は?
先代社長が代表取締役会長も退いて、相談役や顧問等になった場合には、どんな役割があるのでしょうか。非常勤であり、個人保証も外し、実質的には完全に経営から退いているのですから、経営には一切口を出さないようにします。外部との付き合いも、正式なものは後継社長に譲ります。それでは、相談役や顧問等にどんな役割が残っているのかというと、それは後継社長をはじめとした従業員全員に対して、創業の精神を語り、企業理念を継承させていく役割です。自らの体験も踏まえて、従業員が集まる機会などに、講話を行うとよいでしょう。
Q87.事業承継後の株主としての役割は?
事業承継後も引き続き株式を保有して、社長の地位のみ後継者に渡すという経営者もいるかもしれません。この場合は、株主としての役割を果たすことになります。株主の役割は、株主総会で議案を審議して議決を行うことと、株主の視点から経営をチェックすることです。これはこれで重要な役割です。しかし、株式をあの世まで持っていくことはできませんから、何も対策を打たないまま死亡すると、株式は法定相続で分散される恐れがあります。これにより、経営者の意思決定が妨げられるようですと、会社の経営に支障をきたす恐れがあります。したがって、先代経営者は、できるだけ早い時期に、信頼できる後継者を選定して、3分の2以上の議決権のある株式を保有させるようにしなければなりません。
Q88.事業承継後の後継者の役割は?
事業承継後の後継者の役割をひとことで言えば、会社を先代のとき以上に発展させることです。ただし、ここで忘れてはならないのは、後継者は会社を引き継いだ人ということです。先代からの引き継ぎには、プラスの遺産もあり、マイナスの遺産もあるかと思います。後継者は、できるだけ先代のマイナス面を批判しないようにすることが大切です。プラスもマイナスも含めて今日があるのですから、マイナス面には目をつぶってプラス面を伸ばしていくという覚悟が大切です。また、何かと先代と比べられて辛い思いをすることもあるかと思いますが、先代がいたことで、それ以上の見返りを得ていることも確かです。先代の築いた基礎を否定するのではなく、それを生かして、発展させていくことが後継者の役割です。
Q89.事業承継後に最も注意すべきことは?
後継者が事業承継した後に最も注意すべきことは何でしょうか。ひとことで言うと、無理に自分のカラーを出そうとしないことです。もっとはっきり言うと、先代との違いを出すことを目的として、違いを出そうとしないことです。これが最も重要なことです。最初の1年間くらいは、先代の方針をそのまま引き継ぐ。そして、やり方において、若干の改革を加える。これで十分です。これを繰り返していくうちに、結果として、自ずと自分のカラーが出てくるものです。2年目からは方針が正しければそのまま引き継ぐ、改革すべきと思ったら、大きな方針はそのままに、少しだけ変えてみる。3年目も、同様です。そして、3年立った時点で、必要だと思ったら、自分の方針を打ち出します。
Q90.事業承継後の経営改革の進め方は?
後継者は事業承継によって社長の地位に就く前から、先代社長のやり方が古いと感じている場合があります。もし自分が社長になったら一気に改革してやろうと意欲満々の後継者も多いことでしょう。しかし、社長になったからといって一気に経営改革を進めることには慎重になる必要があります。理論的には正しいことでも、従業員がついてこれなければ成功しないからです。したがって、最初は先代経営者のやり方を引き継いで、その中で社内の能力のある若手を集めて経営改革プロジェクトを立ち上げるとよいでしょう。そこで自らの考えを教育して浸透させると共に、具体的なやり方については、積極的にアイデアを募り、取り入れるようにします。そして、社内に理解者を増やしてから、実際の経営改革に取り組むようにします。年配者の抵抗が壁になることも多いので、外部のコンサルタントの立場から説得してもらうのもよい方法です。急がば回れという言葉がありますが、一人だけで先走らないように注意が必要です。
Q91.事業承継後に人事制度を変えたいときは?
事業承継により後継者が社長になったら、今までの年功序列をやめて完全な実力主義に変えたいと考えることはあります。その方針が正しいとしても、いきなり人事制度を変更するのは、かなり危険を伴います。特に年配の社員は、社長が変わったので自分たちの処遇はどうなるのか不安を持っているはずです。そこに、人事制度の変更が始まると、猛反発される可能性があります。経営改革の中でも、人事制度の変更が最も抵抗が大きい要素だからです。したがって、人事制度を変更するには、相当の根回しが必要です。社長に就任していきなり取り組むことは避けて、完全に組織を掌握して、自分の理解者が増えた段階を見極めてから着手するようにしましょう。
Q92.事業承継後に新規事業を始めたいときは?
事業承継によって後継社長になったのだから、何とか実績を高めたいと思って、すぐに新規事業を始めようとする後継者がいますが、これもリスクを伴うので、もう少し期間が経過してからにしたほうがよいと思います。まずは、今までの核となる事業でしっかりと成果を高めて、社内外の信頼を得ることが大切です。いきなり新事業を始めて、それに失敗すると、本業のほうでも社員の信頼を失う恐れが生じるからです。会社の置かれた状況や、経営環境により、スピードを速める必要があることは確かですが、経営者としての信頼を得るまでは、しばらく我慢することです。